
※この記事は2025年12月時点の情報です。草原(牧野)への無断立ち入りは法律で禁止されています。必ず許可を得たガイドツアーを利用してください。
阿蘇と聞いて、多くの人が思い浮かべるのは、見渡す限りに広がる「緑の草原」でしょう。
しかし、この景色が「自然にできたものではない」ことをご存知でしょうか?
実はこれ、1000年以上もの間、阿蘇の人々が手作業で守り続けてきた「巨大な農地」なのです。
2013年には、その希少性が認められ「世界農業遺産(GIAHS)」にも認定されました。
今回は、ただ眺めるだけではもったいない「千年の草原」の深い歴史と、ルールを守ってその中に入るための方法を徹底解説します。
なぜ阿蘇には「木」ではなく「草」が生えているの?

日本の気候では、山を放置するとすぐに木が生い茂り「森(ヤブ)」になります。
しかし、阿蘇は平安時代、あるいはそれ以前から美しい草原の姿を保ち続けています。
それは、ここが牛や馬を育てるための「牧野(ぼくや)」として、人の手で管理され続けてきたからです。
阿蘇の農家の人々は、以下の「3つのサイクル」を1000年以上も途切れることなく繰り返してきました。
🔥 【春】すべてをリセットする「野焼き」

時期:2月下旬〜3月
春の訪れとともに行われる、阿蘇最大の神事とも言える作業です。
草原に火を放ち、枯れ草を焼き払うことで、これから育つ新しい草のために大地をリセットします。
野焼き直後の阿蘇は一面の「黒い世界」になりますが、数週間もすればワラビなどの山菜や、鮮やかな新緑が顔を出します。
🐄 【夏】緑を維持するパートナー「放牧」

時期:4月中旬〜11月
暖かくなると、牛舎で冬を越した「あか牛」や馬たちが草原へ放たれます。
彼らが毎日大量の草を食べ、歩き回ることで、美しい景観が維持されています。
🚜 【秋】冬支度と循環の輪「採草(さいそう)」

時期:9月〜10月
冬の間の牛のエサを確保するために草刈りが行われます。
刈り取られた草は「牧草ロール」となり、冬の間の牛たちの命を繋ぎます。
📖 もっと詳しく知る
阿蘇市観光協会公式サイトでは、草原の四季や歴史についてさらに詳しい情報が掲載されています。
阿蘇の草原 | 阿蘇市観光協会 >
阿蘇の草原がくれる「3つの宝物」
1000年続くこのサイクルは、単に景色を守るためだけのものではありません。
広大な草原は、私たち人間や生態系にとって、計り知れない「3つの大きな恵み」をもたらしてくれています。
① 圧倒的な「景観美」

木が生い茂る日本の山々の中で、これほど広大で見通しの良い草原は他にありません。
四季折々に色を変えるカルデラの風景は、訪れる人の心を癒やし、多くの観光客を惹きつける熊本の宝です。
② 600種を超える「希少植物の聖地」

阿蘇の草原は、「大陸遺存(たいりくいぞん)植物」と呼ばれる、氷河期から生き残る希少な植物の避難場所になっています。
ハナシノブやヒゴタイなど、森になってしまうと生きられない600種類以上の野草が、野焼きと放牧のおかげで今も花を咲かせ続けています。
③ 九州500万人を潤す「天然のダム」

そして最も私たちの生活に関わっているのが「水」です。
草原の土壌は、森に比べて雨水を地下に浸透させる力が非常に強く、降った雨を地下水として蓄えます。
この豊富な地下水は、熊本市内はもちろん、有明海を超えて遠くの地域まで届き、九州北部地域の約500万人もの人々の生活用水を支えていると言われています。
阿蘇の草原は、まさに九州の生命線である「巨大な天然ダム」なのです。
その絶景は、命がけの「炎」で守られている

しかし、この恵みを維持するための「野焼き」は、決して華やかなイベントではありません。
それは、毎年繰り返される命がけの作業です。
広大な草原に火を放てば、炎は高さ数メートルにも達し、風向き一つで猛スピードで襲いかかってきます。
一歩間違えれば大事故に繋がるため、地元の方々は数ヶ月前から防火帯を作る「輪地切り(わちぎり)」を行い、当日は煤(すす)まみれになりながら、必死の覚悟で火をコントロールしています。
近年は高齢化により、この過酷な作業の担い手が不足し、草原維持が難しくなっている場所もあります。
🤝 草原を守る活動に参加しませんか?
「阿蘇グリーンストック」では、野焼きボランティアの募集や、草原再生のための募金活動を行っています。この美しい景色を未来に残すため、あなたの力を貸してください。
【重要】草原は「私有地」です。立ち入りにはルールがあります

「綺麗な芝生だから、ちょっと入って写真を撮ろう」
⚠️ これは絶対にNGです!
観光客が見ている草原のほとんどは、農家の方々が所有する「私有地(牧野)」です。
勝手に立ち入ることは、不法侵入になるだけでなく、靴についたウイルスが牛に感染する(口蹄疫など)恐れがあります。
「じゃあ、遠くから見るしかないの?」
いいえ、そんなことはありません。「牧野ガイド」などの正規ツアーを利用すれば、特別なエリアに入ることができるのです。
公認ガイドと行く!草原アクティビティ厳選3選
「草原で遊ぶことが、草原を守ることになる」
ツアー料金の一部は「牧野保全料」として農家に還元されます。
① 【E-MTB】秘密の草原を爆走「道の駅阿蘇 牧野ガイドライド」

電動アシスト付きマウンテンバイク(E-MTB)に乗って、普段は鍵がかかっている牧野の中を駆け巡るツアーです。
牛たちが草を食むすぐ横を走り抜け、タイヤで土を踏みしめる感覚は、他では味わえない興奮があります。
| 事業者名 | 道の駅阿蘇(牧野ガイド事業) |
|---|---|
| 特徴 | E-MTBレンタル込み、初心者歓迎、絶景保証 |
| 受付場所 |
〒869-2225 熊本県阿蘇市黒川1440-1 📍 Googleマップでルート検索 > |
② 【乗馬】映画のロケ地でカウボーイ体験

阿蘇には、柵の外へ馬と一緒に出かける「外乗(がいじょう)」ができる牧場がいくつかあります。
馬の背中から見る景色は視点が高く、風と一体になれる特別な体験です。
| 事業者① | エル・パティオ牧場 360度パノラマの絶景が自慢。 📍 マップを見る > |
|---|---|
| 事業者② | 夢大地グリーンバレー 映画『キングダム』撮影地。東京ドーム33個分の広さ。 📍 マップを見る > |
③ 【空】鳥の視点で草原を見下ろす「パラグライダー」

草原の起伏や広がりを一番感じられるのが空の上です。
インストラクターと一緒に飛ぶ「タンデムフライト」なら、技術は不要。小高い丘から数歩走るだけで、ふわりと空へ舞い上がります。
| 事業者名 | 阿蘇ネイチャーランド |
|---|---|
| 特徴 | パラグライダー、熱気球など空のアクティビティが充実 |
| 受付場所 |
〒869-2301 熊本県阿蘇市内牧1092-1 📍 Googleマップでルート検索 > |
まとめ:1000年後の未来へ、景色を繋ごう
阿蘇の草原は、人々の営みと自然が共生して作り上げた奇跡の風景です。
「ルールを守って楽しく遊ぶ」
たったそれだけのことが、この美しい景色を次の1000年へ繋ぐ大きな力になります。
さて、この草原で育った「あか牛」は、なぜあんなに美味しいのでしょうか?
そして、春の風物詩「野焼き」は、具体的にいつ、どうやって行われるのでしょうか?
次回の記事では、草原が生んだ「食」と「炎の祭り」について深掘りしていきます。
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